物語の舞台「セダス」
セダスは北と東を海に、南と西を未開の荒野に囲まれた陸地である。
はるか昔、神に愛され永遠の命を持っていた魔法使いのエルフと、世界中に地下回廊を張り巡らし帝国を築いたドワーフがいた。 やがて、セダスに人間がやってきて定住を始める。エルフは人間と接触する過程で神に去られ、永遠の命を失った。 人間たちは争いの中で数々の国家を作り上げ、栄枯盛衰を経て、セダスの支配的種族となった。
セダスの地理
公式設定集「Dragon Age: The World of Thedas Volume 1」より、部分加工
セダスは、中央部に巨大な湾となって食い込んでいる「ウェイキング海」を挟んで、北部と南部に大きくわかれている。 インクイジションの物語は、主に南部で展開される。
- テヴィンター: かつて栄華を誇った人間の魔道士中心の帝国で、最盛期にはセダス全土を支配していた。 そのため、セダス各地にテヴィンター帝国の遺跡が残されている。 現在はセダス北部の一地域を支配しているだけだが、首都である港湾都市「ミンラーソス」は依然としてセダス最大の都市である。 セダス南部の人間を見下す傾向があり、逆に南部側からは「ブライト」を引き起こしたことや奴隷制を維持している点で嫌われている。 教会が国教になる前は、人間に魔法の能力を与えたとされる「古代神」を信仰する多神教だった。
- オーレイ: 教会を庇護することで、テヴィンター帝国に代わって台頭した現セダスの中心的国家。 首都「ヴァル・ロヨー」には教会の本部がある。 最近までセダス南部全域を支配下としていた。 近年は皇位をめぐる権力争いが起こっている。
- フェレルデン: セダス南東部を治める王国。もともとは地方豪族の集まりであり、最近になってオーレイ帝国から独立した。 ドラゴンエイジシリーズの舞台の中心となっている地域である。
- デイルズ: セダス南部のうち「フロストバック山脈」の西側地域。 オーレイ帝国の勢力下だが、現在はオーレイ国内の内乱で荒廃している。 ここはエルフ文明最後の抵抗の地であり、エルフの遺跡や戦場跡が多く残されている。
- フロストバック山脈: セダス南部を中央で二分する山脈。 東側の麓に、インクイジションの前半の拠点「ヘイヴン」があり、ヘイヴンの北の山中には後半の拠点「スカイホールド」がある。 山間部には古くからの伝統を維持する「アヴァー人」の集落が点在している。
- 自由連邦(フリーマーチ): セダス東部の広いエリアにまたがる都市国家連合。 都市国家同士のつながりは弱く、非常時にのみ共同で軍事行動を起こす同盟関係が存在する程度である。 他の地域からの移住者(避難民含む)が多いのも特徴である。 自由連邦三大都市のひとつ「カークウォール」はドラゴンエイジ2の舞台であり、 ここで起きた魔道士とテンプル騎士団の抗争がインクイジションの物語の引き金になっている。
- ネヴァラ: 竜狩りで名を成した王国。もともとは自由連邦に属する都市国家だった。 テヴィンター帝国と同じく、セダスでは珍しい、魔道士の地位が高い国である。 特に「モルタリタシ」と呼ばれる「死」にまつわる祭祀を行う魔道士の存在は有名である。
- ウェスタン・アプローチ: オーレイの西部にある不毛の大地。 二回目の「ブライト」の戦場となった。 荒廃してしまっているが、テヴィンター帝国の遺跡の他、 周辺地域には「オアシス」の神殿や「音漏れの荒野」のドワーフ遺跡など、様々な建造物が残されている。
この他にも、文化と商業の国「アンティヴァ」や、 荒廃した「アンダーフェルス」などがあるが、インクイジションではあまり触れられていない。
セダスに生きる人類
- エルフ: セダスの先住民。魔法の素質を持つ者が多く、かつては永遠の命を持ち、魔法文明を築いていたとされる。 内乱と人間との争いにより集団として衰退した。 現在では人間社会で下層階級として生活する「シティエルフ」と、 放浪民となってセダス各地に散った「デイルズエルフ(デイリッシュ)」とに大別される。
- 人間: セダスの支配的立場となった種族。北方と西方よりセダスに移住してきたとされている。 もともと魔法を使えなかったが、セダスに定住し、エルフと接触していく中で魔法を使える者が出現するようになったらしい。 初期に移住してきた人間たちは、魔法の力を使い、セダス北部に強大なテヴィンター帝国を築き上げ、最盛期にはセダス全土を勢力下とした。 しかし、「ブライト」の発生とその後の混乱により、現在のテヴィンター帝国は過去ほどの威光はない。 かわりに、教会を擁するオーレイ帝国が台頭している。
- ドワーフ: かつて巨大な地底帝国を築いていた高い技術を持つ地底人。 地表に出て(あるいは追放されて)、人間社会の中で共存しているものも少なくない。 魔法の素質がなく、「フェイド」や「リリウム」の影響を受けにくい種族である。 鉱物も生き物であるという独自の思想を持っている。 ドワーフの地底帝国も「ブライト」によって大打撃を受け、弱体化した。
- クナリ: セダスの北方の島「パー・ボレン」より、海を越えて移住してきた角を持つ比較的新しい種族。 現在、セダス北東部の「リヴェイン」を支配している。 セダスの内陸部に対し、これまでに何度も領土拡張戦争を起こしている。 そうした歴史と、社会主義的な「キュン」と呼ばれる生活様式、その見た目が災いしてセダスの中では嫌われた存在である。 なお、キュンに従わないクナリや、逆にエルフや人間の中にもキュンに従う者もいる。
セダスの重要用語
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フェイド:
ドラゴンエイジにおける精神世界。日本文化でいうところの常世や隠世。
寝ているときにみる夢の世界、精霊や悪魔の世界であり、魔法の力の根源とされている。
現実世界とフェイドの隔たりは「ヴェイル」と呼ばれている。
※2015年夏に発売された追加ストーリーDLC「招かれざる客」では、フェイドとヴェイルの秘密に迫ることができる
※「ヴェイル」は花嫁の「ウエディングベール」と同じ単語である - 教会(チャントリー): 創造主と聖女アンドラステを信奉するセダスの支配的宗教。約1000年前に起こった反テヴィンター帝国運動をその起源としている。 「サークル・オブ・メジャイ」、「テンプル騎士団」、「探求騎士団」を抱え、セダスにおける国際組織でもあり、秩序そのものといえる存在である。 歴史的経緯から、最高の地位である「教皇」には必ず女性がつく。 インクイジションの時代には、下部組織の暴走によって支配構造が崩れた。
- 教会暦: 1期100年で構成される暦で、教会がオーレイ帝国によって正式に認められときから始まった。 「ドラゴンエイジ(竜の時代)」は9期目の名称である。 「9:40 Dragon」(9期40年 竜の時代)という形で記載される。 「竜の時代」は、絶滅したと考えられていたハイドラゴンが再び目撃されるようになったことから命名された。
- サークル・オブ・メジャイ(サークル): 魔法の素質があるものを教育・管理する教会公認の魔道士組織。 それぞれの地域に存在しており、危険な力を持つ存在である魔道士を社会から隔離し、魔法の力を正しく制御できるように教育する役割を担っている。 教会の教えでは、「ブライト」の原因を作ったのはテヴィンター帝国の魔道士(賢者)であり、魔道士の存在そのものが危険視されている。 実際、生贄の血を用いる「ブラッドマジック」のように、危険な魔法を自らの欲望のために利用する者も存在する。 また、魔法の素質を持つものはフェイドとの親和性が高いため、悪魔に精神を乗っ取られやすい(悪鬼化:アボミネーション)。 危険指定された魔道士は「静寂の儀」によって「静者(トランキル)」にされ、意志と魔法能力を失う。 インクイジションの時代には、教会からの独立を宣言した。
- テンプル騎士団(テンプラー): 教会所属の武力組織であり、魔道士の監視や教会関係施設の警護を主な仕事としている。 サークル・オブ・メジャイと並立するように、各地域に騎士団が存在している。 リリウムを摂取することで対魔法能力を得ており、この能力を以って魔道士を取り締まっている。 インクイジションの時代には、サークル・オブ・メジャイの独立に対抗し、単独行動をとりはじめた。
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探求騎士団(シーカー):
教会にとって脅威となりうるものを調査する精鋭組織。
個人の独立性が高く、「教皇の右手」と呼ばれる教皇直属の探求騎士もいる。
設立の経緯から、テンプル騎士団の監督役にもなっている。
インクイジションが始まる前に、当時の騎士団長がテンプル騎士団と探求騎士団の教会からの離脱を宣言して失踪するなど、組織として混乱している。
※いわゆる「ネヴァラ協定」を破棄し、探求騎士団とテンプル騎士団を独立させたのはゲーム中に登場する探求騎士団長ルシウスの前任であったランバートである -
審問会(インクイジション):
約900年前から活動していた、アンドラステ信奉者の自警団。教会暦が始まる以前、教会は「アンドラステ教団」と呼ばれており、現在の様な支配構造を築いていなかった。
そこで自発的に魔法や悪魔が絡んだ事件を解決していたのが審問会である。審問会の代表は「審問官(インクイジター)」と呼ばれていた。
教会がオーレイ帝国によって認められてから間もない「1期20年 教皇の時代」に、「ネヴァラ協定」によって教会と合流し、テンプル騎士団の母体となった。
同時に幹部は探求騎士団を組織した。
9期40年、このネヴァラ協定が破棄され教会による支配構造が崩れると、教皇ジャスティニア五世の意向を受けた探求騎士カサンドラらによって審問会が再結成されることになる。
※2015年春に発売された追加ストーリーDLC「ハコンの顎」では、教会との合流を成し遂げた後に、歴史から消えた先代審問官の足取りを追うことになる
※2015年夏に発売された追加ストーリーDLC「招かれざる客」では、本編クリアから2年が過ぎた時点での審問会が扱われる - リリウム: 非常に毒性の強い特殊な鉱物であり精製すると液体になる。 フェイドに対する作用があり、その希釈液は、魔道士が意識を保ったままフェイドに入ったり、 テンプル騎士団が魔道士に対抗するためのドーピング薬として利用されている。 毒性・依存性の高さから、流通は教会が管理している。
- ダークスポーン: 地底から現れる人型の怪物。たびたび地上に大量出現し、セダスに混乱と荒廃をもたらしてきた。 創造主の怒り、もしくは呪いによる「穢れ(コラプション、コラプテッド)」から生まれたものとされている。
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ブライト:
ダークスポーンがアーチデーモンとともに地上に大侵攻すること。インクイジションの時代までに合計五回起きている。
最初のブライトは約1300年ほど前に起き、その後200年もの間、セダスを荒廃させた。
これがきっかけとなり、テヴィンター帝国は没落し、ドワーフの地底帝国も壊滅的被害を受けた。
また、ブライトの原因はテヴィンター帝国にあるとし、反テヴィンター帝国運動が起きた。
この反対運動の中心にいたのが後に教会の崇拝対象となるアンドラステである。
なお、ドラゴンエイジの初作「Origins」は、インクイジションの約10年前に起こった五回目のブライトを扱っている。
※原語は「Bright(明るい、輝いている)」ではなく、「Blight(植物の枯れ、荒廃)」の方である -
アーチデーモン:
かつてセダスを支配していた七匹の竜であり、創造主によって地底に封印されたという伝説上の存在。
人間に魔法の力を与えたとして、テヴィンター帝国で崇拝されていた古代神でもある。
ダークスポーンの行動原理のひとつに、地底に封印されたアーチデーモンの解放があるとされている。
※日本では「アークデーモン」で表記されることが多いが、ドラゴンエイジでは英語の発音に近い「アーチデーモン」
※セダス各地に、これらの竜を祀った寺社が残されてる - ウォーデン: ダークスポーンに対抗するために生まれた戦闘集団。どの国家にも属さない中立という意味で「グレイ・ウォーデン(灰色の監視者)」が正式名称である。 本拠地はセダス北西部のアンダーフェルスにあるワイスハウプト要塞。 第一次ブライトの混乱の中で結成されており、教会以上の長い歴史を誇る。 ダークスポーンの穢れた血を飲み、死なずに生き残った者で構成されている。 血を飲んだことでダークスポーンの存在を感知できるが、一方で、徐々に血に蝕まれ最終的に精神を乗っ取られてしまう。 そのため、死期を悟ったウォーデンは、正気を失う前に地底に向かい、ダークスポーンと戦いながら死を迎える。 ウォーデンになることは戦士として最高の誉れとされ、古来より数々の特権が与えられている。
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地底回廊(ディープロード):
ドワーフによってセダス全土の地底に張り巡らされたトンネル。
第一次ブライトでドワーフ帝国が大打撃を受けた際、閉鎖された。
この閉鎖により、都市国家ネットワークであったドワーフ帝国は分断され、現在は2つの国家が生き残っているだけである。
ダークスポーンは、この地底回廊を移動しているとされ、セダスのどこであってもダークスポーンが出現する可能性がある。
※2015年夏に発売された追加ストーリーDLC「地底世界」では、地底回廊を冒険し、リリウムの秘密に迫ることができる - 魔道士(メイジ)、魔道師(エンチャンター)、賢者(マジスター): これらはすべて魔法を使える者を指す言葉である。 魔道士(メイジ)は魔法を使える者を指す一般的な言葉である。 魔道士は基本的に「サークル・オブ・メジャイ」に所属しているため、それを強調するときには「サークルメイジ」と呼ばれる。 一方、サークルに所属していなかったり、離反した魔道士は、教会の教えに反しているという意味で「背教者(アポステイト)」と呼ばれる。 魔道師(エンチャンター)はサークルにおける役職であり、一人前の魔道士であることを意味している。 サークルの代表は「筆頭魔道師(ファーストエンチャンター)」と呼ばれる。 賢者(マジスター)はテヴィンター帝国の賢者院(マジステリウム、貴族院のようなもの)の議員である。 テヴィンター帝国の賢者院議員は、帝国内のサークル・オブ・メジャイのメンバーから選ばれるため、必然的に全員が魔道士である。
「インクイジション」が始まるまでの直近の展開
自由連邦の都市国家「カークウォール」で魔道士とテンプル騎士団の対立が激化し、各地のサークル・オブ・メジャイが教会から独立して、全国的な騒乱に発展する(1)。 探求騎士団、テンプル騎士団も教会から離れて独自の行動を取るようになり、教会の支配構造が崩れた。オーレイ国内では皇帝の座をめぐる内乱が起きていた。
事態収拾のため、教皇ジャスティニア五世が魔道士とテンプル騎士団に講和を呼びかける。
同じ頃、「教皇の右手」で知られる探求騎士カサンドラ・ペンタガーストと、「教皇の左手」の修道女レリアナは、 古の時代に秩序を求めて立ち上がった「審問会」の再結成に向けて人員の手配を進めていた。 二人は、カークウォールの治安維持に尽力していたテンプル騎士カレンを幹部としてスカウトし、 事情通のドワーフ商人にして小説家のヴァリック・テスラスを連れ、聖地「聖灰の神殿」で行われる講和会議に向かった。
インクイジションの話は、講和会議で起こった巨大な爆発(2)から始まる。 プレイヤーは、出自によって異なるが、何らかのかたちで講和会議に参加し、爆発に巻き込まれることになる。
(1):第二作「ドラゴンエイジ2」の内容である
(2):ゲーム起動後のメニュー画面がこの爆発のシーンを描いている。中央の高台にある講和会議の会場に向かって、右側を歩くのがテンプル騎士団、左側が魔道士である。
(3):ちなみに初期からいるもう一人の仲間であるソラスは、爆発後にフェイドに詳しい魔道士として審問会(このときはまだ正式には未結成)に志願している。
「ドラゴンエイジ」の世界設定についての補足
ドラゴンエイジシリーズのリードライターであるデヴィッド・ゲイターが公式設定集「The World of Thedas Vol.1」の序文で、 世界観を構築するときのアイデアとして 「キリスト教が、イエス・キリストではなく、ジャンヌ・ダルクによって生まれたら、どう変わっていただろうか。」 と述べている。 つまり、アンドラステはジャンヌ・ダルクをモデルにして描かれたようである。 また、教会の「聖歌(チャント・オブ・ライト)」には、聖書に由来する表現があり、 キリスト教を強く意識しているのは間違いない。 かつて、古代神を信仰していた多神教のテヴィンター帝国が、一神教の教会を国教としたのも、ローマ帝国とキリスト教の関係に似ている。 なお「有徳(エグザルテッド)」という耳慣れない用語がゲーム中に出てくるが、 これは、「宗教の名において行われていること」を指す。
このように、現実世界の歴史や宗教を参考に世界設定が構築されていることを頭に入れておくと理解が深まる。 また、ファンタジーの文脈を、あえて外す方向の世界設定も作られている。
ファンタジーにおいて、ドワーフは豪放磊落な職人として描かれる場合が多いが、 ドラゴンエイジの場合は政治に長けた策士としての一面や、 ヒンドゥー教のカースト制に近い、厳しい階級社会を形成していることが描かれている。 また、クナリの社会規範である「キュン」は、SFで見られるようなディストピア全体主義となっているが、 ディストピアとしてではなく、社会のひとつのありかたとして相対化して描いている。
関係者たちの証言と解釈で「主観的」に語られる世界
ある程度ゲームをプレイしていけば、登場人物たちそれぞれが「立場」と「思想」を持ち、それらに従って考え行動していると気づくだろう。 ドラゴンエイジの物語は、そうした異なる立場や思想を背景に持つ登場人物たちとの会話や、彼らが残した「コーデックス」と呼ばれる文献(多くの場合、日記や手紙)を通じて語られる点に特徴がある。 ここで大事なのは、そうした会話や文献から得られる情報は、とにもかくにも「主観」的なものであり、誤解を恐れずにいえば登場人物の都合に左右される「ポジショントーク」だということである。
プレイヤーはこうしたそれぞれの登場人物の立場や思想を頭に入れながら、断片的に得られる情報を整理し、自分なりの「セダスの世界」を作り上げることになる。 それがドラゴンエイジの物語要素の「面白み」だと私は思う。 この記事が「あなたのセダス」の構築に役立つことを願っている。